睡眠の仕組みから考える、心地よい眠りをつくる習慣

睡眠

 

「もう朝か…」

「あと10分だけ…」

眠たい目をこすりながら、なんとか起きようとする。
でも眠気に負けてつい二度寝をしてしまい、気づけば出勤時間が目前に迫っている。



大慌てで準備をして家を飛び出す。なんとか始業には間に合ったものの、朝食を取れず頭がぼんやりしたまま午前中が過ぎていく。
仕事は思うように進まず、そのしわ寄せが午後にのしかかる。

1日働き詰めてようやく帰宅。
「今日は頑張ったし、少し気分転換でも…」
そう思ってスマホを取り出し、お気に入りの動画を再生する。

ベッドに横になって動画を見ていると、だんだんまぶたが重くなる。
気づけばもう深夜1時を過ぎている。

「さすがにそろそろ寝ないと…」
寝支度をして布団に入るが、翌朝もまた眠い目をこすりながら一日が始まる。

 

忙しい毎日の中で、十分な睡眠が取れず疲れを抱えたまま過ごしている人は多いのではないでしょうか。
実際、日本人の睡眠事情はかなり厳しい状況にあります。

2025年の調査では、平均睡眠時間は 6.3時間
理想とされる睡眠時間よりも 1.1時間も短い という結果が出ています。

 

https://www.cross-m.co.jp/report/20250415sleep

 

さらに、OECD(経済協力開発機構)が2021年に行った調査では、
日本人の平均睡眠時間は 33カ国中最下位 という報告もあります。

こうしたデータを見ると、世界的に見ても日本人の睡眠時間は短いことがわかります。
睡眠不足は仕事の効率低下だけでなく、慢性的になると健康への影響も無視できません。

より良い1日を過ごすために、睡眠は欠かせない要素です。

今回は、クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル著
『熟睡者』を参考に、快適な睡眠を得るためのヒントを読み解いていきます。

 

 

睡眠のステージ

私たちの睡眠は、脳や体の働きが段階的に切り替わることで成り立っています。
その流れを知ることで、「なぜ眠れないのか」「どうすれば眠りやすくなるのか」が少しずつ見えてきます。

睡眠は大きく 「ノンレム睡眠」「レム睡眠」 に分けられます。
ステージ1〜3はノンレム睡眠にあたり、脳と体が段階的に休息へ向かう時間です。

一方、ステージ4がレム睡眠で、夢を見やすい睡眠段階です。

ここからは、それぞれのステージを見ていきましょう。

 

ステージ1――覚醒から睡眠への移行

このステージは、起きている状態から睡眠へと移行する段階です。

横になって目を閉じると、日中に活発に働いていた脳は少しずつリラックスし、体の緊張もゆるんでいきます。身体が休息の準備を始める時間ですね。


ただし、私たちの身体に備わっている平衡感覚システムは、すぐに“睡眠モード”へ切り替わるわけではありません。

そのため、眠りはじめに筋肉がピクッと動く「ジャーキング」と呼ばれる現象が起こることがあります。授業中にうとうとしていたら体がビクッとした経験がある人も多いのではないでしょうか。

 

ステージ2――浅い睡眠

このステージは、睡眠全体の 50〜60% を占める、最も長い時間の睡眠段階です。 脳波はゆっくりとした波に変わり、さらに「睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)」と呼ばれる特徴的な脳波が現れます。

睡眠紡錘波は、視床から大脳皮質へ送られる信号で、外からの刺激を遮断し、脳が記憶の整理に集中できるように働きます。


視床は「意識への扉」とも呼ばれる部位で、この視床と大脳皮質のやり取りが整うことで、質の良い睡眠へと導かれていきます。

 

ステージ3――深い睡眠

この段階では、脳も体も深い休息状態に入り、しっかりと回復が進みます。

ステージ2で登場した視床が大脳皮質への刺激を遮断することで、簡単には目を覚まさない状態になります。

深い睡眠の大半は、睡眠全体の前半に多く現れます。

この時、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌量が減り、血圧や心拍数が低下し、心血管系の休息の時間となります。

一方で成長ホルモンは分泌され、体の組織が修復、再生されていきます。

この深い睡眠の最中に起こされると、意識がぼんやりした状態で目覚め、脳が完全に働き始めるまでに少し時間がかかります。

 

ステージ4――レム睡眠

レム睡眠は「Rapid Eye Movement(急速眼球運動)」の略で、まぶたの下で眼球が素早く動くことから名付けられています。
このステージで私たちは夢を見ることが多いと言われています。

レム睡眠は睡眠の後半に増えていきます。
この時期にはコルチゾール値が上昇し、血圧の変動も大きくなります。また、大脳皮質の一部が活発に働き始め、脳が“目覚めの準備”をしている状態とも言えます。

 

 繰り返される睡眠サイクル

私たちの睡眠は、先ほど紹介した4つのステージが順番に進むことで、ひとつの「睡眠サイクル」をつくります。

1サイクルは およそ90〜120分。このサイクルを一晩のあいだに何度も繰り返すことで、脳と体は少しずつ回復していきます。

 

 

深い睡眠(ステージ3)は、夜のはじめに多く現れ、朝に近づくにつれて短くなっていきます。
一方でレム睡眠(ステージ4)は、睡眠の後半になるほど長くなるのが特徴です。

なぜこのような睡眠サイクルが構成されているのかは、まだ完全には解明されていません。

ただ、多くの研究者は、心身の回復や記憶の定着に関わっている可能性が高いと考えています。

睡眠のステージがバランスよく繰り返されることで、私たちは翌日を気持ちよく過ごすための準備が整っていくのです。

 

光が体内リズムを整える

私たちの目は、朝と夕方の光に特に敏感に反応します。
朝、太陽の光を浴びると、その情報は脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」へと送られます。

視交叉上核は“マスタークロック”とも呼ばれ、
体内時計の中心として、全身の器官にリズムを伝える役割を持っています。
光の刺激を受け取れる唯一の体内時計であり、ここが整うことで私たちの1日のリズムが決まっていきます。

さらに視交叉上核は、

  • メラトニン
  • コルチゾール
  • アドレナリン

といったホルモンの分泌にも関わり、朝と夜の体温調節にも影響を与えます。

この働きのおかげで、たとえ徹夜明けのような日でも、
朝の光を浴びることで体は「1日のスタートだ」と認識し、体内時計がリセットされていきます。

一方で、夕方の光は「そろそろ休息の準備を始めよう」という合図になります。
日が沈むにつれてメラトニンの分泌が高まり、体温がゆっくりと下がり、自然と眠りに向かう流れが整っていきます。

現代では、スマホやパソコンの光がこのリズムを乱すことがありますが、
朝の光をしっかり浴びるだけでも、体内時計はかなり整いやすくなります。

 

体温が眠りのスイッチを入れる

夜になると、マスタークロックは体に「そろそろ休む時間だよ」と合図を送り、体温をゆっくりと下げ始めます。
体温が下がること自体が、体内時計にとって「夜の始まり」と「眠りへの準備」を知らせる大切なサインになります。

体温は明け方の 3〜5時ごろに最も低くなり、この時間帯は夢を見やすいレム睡眠が増える時期でもあります。 このときの体温はおよそ 36度前後

そこから起床に向けて体温は上昇し、目覚める頃には 37度近く まで上がっていきます。

 

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眠っている間、体は体温を下げることでエネルギーを節約しています。

胃腸は食べ物を消化する必要がなく、心臓も激しい運動をしていないため、多くの酸素を送り出す必要がありません。

しかし、脳だけは日中と同じようにエネルギーを必要とします。

睡眠中は食事でエネルギー補給ができないため、体はほかの機能を省エネモードにし、その分を脳に回しているのです。

自然な睡眠・覚醒リズムを保つためには、寝る前の部屋を必要以上に暖めすぎないことが大切です。
体温が自然に下がっていく流れを邪魔しないことで、眠りに入りやすくなります。

 

酸素と呼吸の関係

眠っているあいだに、十分な酸素を確保することも快適な睡眠には欠かせません。

いくつかの研究では、窓を少し開けて寝たほうが睡眠の質が高まるという結果が報告されています。 新鮮な空気が入ることで、室内の二酸化炭素濃度が上がりすぎず、呼吸がしやすい環境になるためです。

とはいえ、必ずしも窓を開ける必要はありません。
寝室のドアを少し開けておくだけでも空気が循環しやすくなり、十分な効果が期待できます

大切なのは、閉め切った空間にしないこと

空気がゆるやかに入れ替わるだけで、体がリラックスしやすくなり、眠りに入りやすくなります。

 

睡眠に良い食事とは

食事のタイミングは、睡眠の質に大きく影響します。

朝、目が覚めると「腹時計」が動き出し、体はエネルギーを取り入れる準備を始めます。
一方で夜になると、胃腸の働きはゆるやかになり、翌日に備えて休息モードに入ります。

しかし、夜遅い時間に重い食事をとってしまうと、休むはずだった胃腸が再び働くことになり、体は十分にリラックスできません。

この状態で眠ろうとしても、体の内部では活動が続いてしまうため、結果として睡眠の質が下がりやすくなります。

こうした負担を避けるためには、朝7時〜夜19時の間に規則正しく食事をとることが、体内時計のリズムを整えるうえで役立つとされています。

食事の時間帯が安定することで、体は「いつ活動し、いつ休むか」を理解しやすくなり、自然と眠りに入りやすい状態が整っていきます。

 

睡眠の質を高める食べ物

食べるものによっても、睡眠の質は変わります。

 

牛乳

牛乳には「トリプトファン」というアミノ酸が含まれています。

これは睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を助け、眠りにつきやすくなると紹介されています。

ただし、乳糖不耐症の人やアレルギーがある人は、膨満感や下痢などの不調につながることがあり、かえって睡眠の妨げになる場合があります。

自分の体質に合わせて取り入れることが大切です。

サワーチェリー

サワーチェリーにはメラトニンが多く含まれており、特に果汁には生のサワーチェリーよりも多く含まれているとされています。

牛乳が合わない人は、サワーチェリージュースを取り入れるのも一つの方法です。

 

コーヒーとの付き合い方

夜に飲むコーヒーは、カフェインの作用で眠りを妨げてしまいますが、朝のコーヒーはむしろ良い影響を与えると考えられています。

朝にカフェインをとることで目が覚めるだけでなく、体内時計のスイッチが入りやすくなります。

特に朝のコーヒー1杯は、肝臓のリズムを整える働きがあるとされ、体内時計が自然と“朝型”にシフトしていく助けになります。

 

運動はいつするのが良い?

運動は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促し、体を“覚醒モード”に切り替えます。

そのため、睡眠・覚醒リズムを整えるには午前中に運動をするのが良いと紹介されています。

朝の運動は、体内時計に「1日のスタート」を知らせるサインにもなり、自然と朝型の生活リズムを作りやすくなります。

また、7〜8時、もしくは15〜17時の時間帯に持久系の運動を行うと、日中に浴びる光の量に関係なく体内時計を朝型に調整できるという研究結果もあります。

生活リズムに合わせて選べるのが嬉しいところです。

一方で、19〜22時にランニングのような強めの運動をすると、体内時計が夜型にシフトしやすいとされています。 汗をかくような運動は体温を上げるため、眠りに入りにくくなることがあります。

そのため、こうした運動は 眠る3〜4時間前までに終えておくと、自然な睡眠リズムを保ちやすくなります。

 

私たちの睡眠は、脳や体の働きが段階的に切り替わることで成り立っています。

その仕組みを知ることで、「なぜ眠れないのか」「どうすれば眠りやすくなるのか」が少しずつ見えてきます。

今回紹介したように、快適な睡眠をつくるポイントは特別なことではなく、日常の中にある小さな習慣です。

 

  • 朝の光を浴びる
  • 寝る前に体温が自然に下がる環境をつくる
  • 空気がこもらないようにする
  • 食事のタイミングを整える
  • 無理のない範囲で運動を取り入れる

どれも、今日から少しずつ試せるものばかりです。

睡眠は「頑張って改善するもの」ではなく、 自分の体が自然と休めるように“環境を整えてあげること”が大切です。

今回の記事では、クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル著 『熟睡者』を参考に、睡眠の仕組みと生活の中でできる工夫を紹介しました。 科学的な視点をやさしくまとめてくれている本で、睡眠に悩む人にとって心強い一冊です。


完璧を目指す必要はありません。
できそうなことを一つだけ取り入れてみるだけでも、翌日の過ごしやすさが変わっていくはずです。

あなたの毎日が、少しでも心地よいものになりますように。

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