「疲れたな…コーヒーでも飲んで気分転換しよう」
「頭がぼーっとしてきたから甘いものを取ってエネルギー補給だ」
「今日は仕事を頑張ったからビールを飲んで1日の疲れをリセットだ」
仕事をしていると疲れてくることは多いですよね。
そんなとき、疲労感を抜くためにコーヒーやエナジードリンクを飲んだり、甘いものを取ってリフレッシュしたりする人も多いでしょう。
もちろん、疲労を取り除くことは大切です。
しかし、取り除ける疲労の量には限りがあります。
日々を活力あふれた状態で過ごすために重要なのは、疲労を溜めないことです。
しかし、疲労を溜めないようにするといっても、どのような行動がよいのかはあまりピンとこない人も多いですよね。
疲労を溜めない行動モデルを片野秀樹著の『疲労学:毎日がんばるあなたのための』から学ぶことができます(片野, 2025)。
同書はストレスの多い現代社会において、より活力的な生活に変えていく手助けとなる内容です。
この行動モデルの内容と、どのようにして日常生活に組み合わせていけるかを解説していきます。
ストレスの分類
そもそも疲労は何から生み出されているのでしょうか?
疲労の源、それは…ストレスです。
ストレスの多い現代社会では自ずと疲労をため込んでしまいます。
私たちに疲労の原因となるストレスを与えるものは「ストレッサー」と呼ばれます。
日本医師会はストレッサーをその性質から、5つのストレッサーに分類しています(日本医師会, n.d.)。

これらのストレッサーが私たちにストレスを与え、疲労を蓄積させています。一般にストレスというと人間関係によるストレスを連想することが多いですが、温度や人混みによる物理的な刺激もストレッサーとなりえます。
こう考えると思っている以上に私たちの身の回りはストレッサーに囲まれていることがわかります。
抑疲労
ここからは疲労を溜めない方法について解説をしていきます。
まず、片野氏は「オンタイムでの疲れが少なければ、それだけ休養にあてる時間も少なくて済み、効率がよくなる」と述べており、これを「抑疲労」と名付けています。
仕事での疲労を少なくすることができれば、休養にあてる時間が少なくなりますし、その分を自分の好きなことに費やす時間も増えます。そう考えるとたしかに時間の効率はよくなりますよね。
昨今、タイムパフォーマンスという言葉も流行っており、今を生きる人たちにとってはまさに甘美の響きがあります。
そんなストレスを対処する方法を「疲労学」ではDRICS理論として紹介しています。
DRICSは、Distance(距離を取る)/Reset(リセット)/Interest(興味に変える)/Control(支配下に置く)/Space(余白をつくる)の頭文字を取ったものです。日常のストレス要因を分類し、それぞれに対処する方法を体系化しています。
DRICS理論
Distance ~ストレッサーから距離を取る~
この考え方ではストレッサーか文字通り距離を取り、ストレスを受ける量を減らすというものになります。

Distanceでは5つすべてのストレッサーに対処することができます。
物理的ストレッサーや化学的ストレッサー、生物学的ストレッサーはわかりやすく、物理的な刺激や化学物質、ウイルスなどから直接的に距離を取ることでストレス負荷を軽減できます。具体的には日傘やマスクなどの道具を使い直接的な負荷を減らします。車や電車に乗るときは車両の真ん中などの振動の少ない部分に乗り、振動の負荷を減らすことも効果があります。
心理的ストレッサーでは、心理的負荷になる嫌な思い出を想起させるものを目の届かないところに隠すなど、自分にとって嫌なものを身の回りに置かないことも大切です。
社会的ストレッサーでは人間関係が関与することが多いので、苦手な人に対しては必要以上に自分を見せないことで心理的な距離を取ることも有用です。SNSでは嫌なコメントはブロックするなどして心理的な負荷を減らしていきましょう。
Reset ~ストレッサーをゼロに近づける~
一度は受けたストレスを、行動によりゼロに近づける考え方です。

物理的ストレッサーでは、気温によるストレスはシャワーを浴びたり、入浴をすることでリセットできます。
騒音への対処はホワイトノイズが有用という報告があります。
ホワイトノイズには人が聞こえる周波数帯のすべての音が均一に混ざっています。実験的研究によりホワイトノイズが心拍数の上昇を抑え、主観的ストレスを有意に低減することを示しており(Ganea et al. , 2025)、ホワイトノイズにより周囲の音をマスキングすることで、騒音ストレスのリセット手段として有効性が示唆されています。
化学的ストレッサーでは自分のお気に入りの香りを嗅ぐことで香害をリセットすることができます。
心理的ストレッサーに対しては深呼吸を行い、力を抜くことが有用なリセット方法になります。
呼気を長くしたゆっくりとした呼吸は、副交感神経を高めてストレスを有意に低減することが複数のRCTで示されています(Fincham et al.,2023)。
ゆっくりと吐く時間を長くした呼吸をすることで横隔膜が収縮し、これにより迷走神経、副交感神経が優位に作用することで気持ちがリセットされます。
生物学的ストレッサーは手洗いやうがい、消毒などにより細菌やウイルスなどをリセットすることが有用です。
社会的ストレッサーでは転職や引っ越しなどの環境のリセットが必要になります。大きな決断となるので、周りに相談して決断をしていくのもいいでしょう。
Interest ~ストレッサーを興味に変える~
Interestは「ストレスを興味の対象や楽しみの対象に”変換”してしまう」方法です。

Interestは「ストレスを興味の対象や楽しみの対象に”変換”してしまう」方法です。
研究ではストレスの意味づけが反応を左右し、ストレスを「向上させるもの」と再解釈することで、ストレスを興味や成長の機会へと変換する行動が増えると述べています(Crum et al. ,2013)。
日常の仕事ではアウトプットが求められ、それ自体が心理的ストレッサーになります。しかし、そのタスクを「興味の対象」として捉え直し、関連する知識をインプットしながら深掘りしていくと、ストレスは軽減され、むしろ集中や没頭が生まれます。
例えば資料を作成するときに、既存の情報に新しくもう一つ情報を調べて付け加えたり、気になったことや意味が分からないところを調べて解説したりすることで作業に興味を持って取り組めるようになります。
興味を持ってインプットを行うことで、より深掘りをすることができ、ワンパターン化やマンネリ化を防ぐことにもつながります。
さらに、この“興味への変換”は、ストレスを未来への投資(Investment)として扱うことにもつながります。いまの大変な仕事が将来の自分を強くする、と意味づけられることで、前向きに取り組めるようになります。
Control ~ストレッサーを支配下に置く~
ストレッサーを自分の支配下に置き、ストレスの原因に対して介入していくやり方になります。介入をするという点で、DistanceやResetよりも一歩踏み込んだストレス軽減方法となります。
特に、同じ場所、時間を共有する人に対して交渉を行い、ストレッサーを排除していく手法もあるため、他人との関係性も大事になります。

物理的ストレッサーでは温度に関しては、自ら空調の温度設定を訴えるといった方法があります。通勤時の混雑がストレスになっている場合は、時差出勤やリモートワークを申し出るのも有効になります。
化学的ストレッサーでの香害に関しても交渉が重要になります。ストレスを避けるためにはNoという勇気も必要になります。
Controlにおいて心理的ストレッサーに対する対処が最も重要になります。
その中で大切なのはマイペースを維持することです。
雑踏の中を歩くとき、人の流れやスピードに合わせて歩くのは意外とストレスになります。そのようなときには端によって雑踏を避けることで自分のペースを保って歩くことでストレスの軽減が期待できます。
仕事に関してもマイペースは有効です。ここでのマイペースは自分のペースでゆっくりやる、というよりも自分で締め切りを設定して行うということです。
研究では自律性が高いほど内発的動機づけ・活力・パフォーマンスが向上することを示されています(Ryan & Deci, 2000)。
自分で締め切りを設定することは、自分で行動を選び調整するという自律性を高める行為であり、Control が目指す「自分で行動を整える」ための有効な方法として位置づけられます。
また、締め切りに追われることは大きな心理的負荷になるため、自ら期限を設定し早めに仕事を終わらせることでストレスを軽減します。自分で締め切りを決めて、その日に向けて動く。能動的な行動となるためストレスを感じにくくなります。これがもう一つのマイペースになります。
生物学的ストレッサーの細菌やウイルス、アレルギー物質への対処はDistanceやResetと大きくは変わりません。
この項目では、食事に関するストレッサーも存在し、食べ過ぎも生物学的ストレッサーに分類されます。日ごろから手部過ぎには気をつけ、時にはファスティングを行い、消化器官を休めることもよい対策になります。
社会的ストレッサーでは会話の主導権を握る、わがままになってみることで人付き合いにおいてその場を支配することでストレッサーの軽減につながります。
わがままは自分のあるがままでいるということであり、家族や友人との時間の中でも自分が予定を立てて動くことで、一緒の時間の主導権を握ることができます。
また、1日に1時間でも自分のあるがままになれる時間を確保することも大切です。
Space ~ストレッサーに余白をつくる~
Spaceでは「ストレッサーに対して時間的な余白や隙間を設定」していきます。
この考え方は特に心理的ストレッサーに対して有効に作用します。

移動中に電車の窓から外の景色をぼーっと眺めたり、休憩中にカフェでうとうとしたり。現代ではこういったすきま時間ですらスマホを見たり、仕事の資料を確認したりする人も多く、この時間にもストレスを感じてしまっています。移動や休憩中には意識的に余白の時間をつくるようにしてストレスを軽減していきましょう。
次は予定を二重、三重にしないことです。空いている時間に予定を入れたり、いつでも対応できるというようにして予定や仕事を受けていると即席の予定も入ったりして予定が重なってしまいかねません。忙しく動き回るとそれもまた心理的な負荷になります。予定表やカレンダーを周りに共有して、予定をかぶらないようにし、余白の時間を作るようにしましょう。
また、現代社会ではメールやチャットの返信に追われることも多いです。特にすぐに返信することはできるビジネスパーソンの条件とされていることもあります。
フランスでは 2017 年に「つながらない権利」が法制化され、勤務時間外に仕事のメールや電話に応じない権利が保障されています(Boring, Nicolas, 2017)。制度の目的は、従業員の私生活や休暇を守り、ストレスを軽減するために“つながらない時間”というスペースを確保することです。
連絡する側も不要不急の内容であれば、すぐに返信を求めていないのでメールやチャットを確認する時間を決めて、それ以外の時間では確認しないようにするのも一つの手です。
抑疲労の7日間実践プラン
Day 1:Distance(距離を取る)— まずは“減らす”ことから始める
● 今日やること(1つでOK)
朝:通勤ルートで「混雑を避ける選択」を1回する
昼:10分だけ“ノイズ対策”(耳栓 or ホワイトノイズ)
夜:嫌な記憶を想起させる物を1つ、視界から外す
● ねらい
ストレッサーの総量を減らすことで、
その後の Reset・Interest が効きやすくなる土台を作る日。
Day 2:Reset(リセット)— 小さな回復を“こまめに”入れる
● 今日やること
朝:ぬるめのシャワーで体温ストレスをリセット
昼:2分間の「呼気を長くする呼吸」
夜:ホワイトノイズで“音のリセット”を体験
● ねらい
Ganea et al.(2025)や Fincham et al.(2023)の研究が示すように、
短いリセットを頻繁に入れるほどストレスは蓄積しにくい。
Day 3:Interest(興味に変える)— ストレスを“燃料”に変換する
● 今日やること
仕事のタスクを1つ選び、
「興味の視点で深掘りする」
例:資料作成 → 1つ新しい情報を調べて追加する
● ねらい
Crum et al.(2013)が示すように、
ストレスの意味づけを変えると反応そのものが変わる。
“興味”は最も強力なストレス緩衝材。
Day 4:Control(支配下に置く)— 自分で選ぶ感覚を取り戻す
● 今日やること
今日のタスクのうち 1つだけ、自分で締め切りを設定する
通勤・移動では「自分のペース」を意識して歩く
● ねらい
Ryan & Deci(2000)の自己決定理論が示すように、
自律性が高いほどストレスは低下し、活力が上がる。
Day 5:Space(余白をつくる)— “何もしない時間”を意図的に確保
● 今日やること
カレンダーに 15分の余白 を1つ入れる
その時間はスマホを触らず、ぼーっとするだけ
● ねらい
余白は“心理的ストレッサーの緩衝材”。
フランスの「つながらない権利」が示すように、
つながらない時間はストレス軽減に直結する。
Day 6:DRICSを組み合わせる(応用編)
● 今日やること
1つのストレッサーに対して 2つ以上のDRICSを組み合わせる
例:
騒音 → Distance(席を変える)+ Reset(ホワイトノイズ)
締め切り → Control(自分で期限設定)+ Interest(学びに変換)
● ねらい
DRICSは単独でも効果があるが、
組み合わせると“疲労の蓄積”をほぼゼロにできる。
Day 7:自分の“抑疲労パターン”を作る(定着)
● 今日やること
1週間の中で「効いたもの」を3つ書き出す
それを “毎日のルーティン”に組み込む
● ねらい
抑疲労は「習慣化」した瞬間に最強になる。
あなたの生活に合った DRICS の“型”を作る日。
まとめ|疲れを溜めない生き方は、今日の小さな一歩から始まる

疲労を減らすのではなく、
疲労が溜まらない状態をつくる。
これが「抑疲労」の核心です。
私たちの毎日は、気づかないうちにストレッサーに囲まれています。
だからこそ、疲れを“後から取り除く”のではなく、
そもそも疲れが積み重ならない仕組みをつくることが大切になります。
そのための5つの柱が DRICS です。
- Distance:ストレッサーを減らす
- Reset:こまめにゼロに戻す
- Interest:ストレスを燃料に変える
- Control:自分で選ぶ
- Space:余白で回復する
どれも特別な道具や時間は必要ありません。
今日の行動をほんの少し変えるだけで、
疲れ方が静かに、でも確実に変わっていきます。
たとえば、
・混雑を避けて歩く
・2分だけ呼吸を整える
・タスクを1つだけ興味の視点で深掘りする
・締め切りを自分で決める
・スマホを置いて15分ぼーっとする
こうした“小さな選択”の積み重ねが、
あなたの1日を軽くし、1週間を楽にし、
やがては「疲れにくい体質」そのものをつくっていきます。
疲れを溜めない生き方は、
大きな決断や劇的な変化から始まるものではありません。
今日できる小さな一歩を、静かに積み重ねていくこと。
その積み重ねが、
あなたの毎日をもっと軽く、もっと自由にしてくれます。
DRICS は、そのための“地図”です。
あなたの生活に合う形で、無理なく取り入れてみてください。
きっと、1週間後のあなたは、今より少しだけ軽やかに過ごせているはずです。
参考文献
1) 片野秀樹(2025)『疲労学:毎日がんばるあなたのための』.東洋経済新報社.
2)日本医師会(n.d.). 「ストレスが引き起こす病気」. https://www.med.or.jp/forest/check/04.html , (参照 2026-03-30)
3) Andrew Ganea et al(2025). 「Examining the impact of white noise on stress and cognitive performance in university students」. 『Queen’s Science Undergraduate Research Journal』.Vol8.43-49
4) Guy William Fincham et al(2023). 「Effect of breathwork on stress and mental health: A meta-analysis of randomised-controlled trials」. 『Nature Scientific Reports』. 13:432.1-14.
5) Alia J. Crum et al(2013). 「Rethinking stress: The role of mindsets in determining the stress response」. 『Journal of Personality and Social Psychology』. Vol:104No4.:716–733.
6) Richard M. Ryan, Edward L. Deci(2000). 「Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being」. 『American Psychologist』. Vol:55.No1.68–78.
7) Boring Nicolas(2017). 「France: Right to Disconnect Takes Effect」. 『Library of Congress』. https://www.loc.gov/item/global-legal-monitor/2017-01-13/france-right-to-disconnect-takes-effect, (参照 2026-03-30)

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