― 体温と自律神経から読み解く、やさしい整いの科学 ―
―ととのう―
この言葉を最近よく聞くようになってきましたよね。
近年サウナブームが巻き起こっており、日本の若者の間にも浸透してきます。 2024年の全国調査ではサウナが「好き」と答えた人が39.1%、特に20代男性で最も高くなっています。サウナの習慣においては週1回以上サウナに通う人が17.6%にものぼると報告されています。


サウナ人口全体も増加傾向にあり、2024年には推定 1,779万人 と、前年より約100万人増えています。
“サ活”や“ととのう”という言葉が若者の間で当たり前のように使われ、サウナはすでにライフスタイルの一部になりつつあります。
そんなサウナですが、実は「気持ちいい」だけではありません。
近年の研究から、睡眠を深くする効果 があることがわかってきました。
なぜサウナに入ると、あの心地よい眠気が訪れるのか。
その理由を、睡眠の仕組みからひもといていきましょう。
サウナの使用と睡眠状態の改善の実態
Global Survey 2019:83.5%が「睡眠が改善した」と回答
世界規模でサウナ利用者の実態を調べた Global Sauna Survey 2019 では、サウナが健康や睡眠にどのような影響を与えているのかが報告されています※1。調査はオンライン形式で行われ、北欧・欧州・北米・アジアなど、幅広い地域のサウナ利用者が回答しています。
この調査の中で特に注目されるのが、睡眠に関する自己申告データです。

83.5%のサウナ利用者が「睡眠が改善した」と回答しており、具体的には次のような変化が挙げられています。
- 寝つきが良くなった
- 深く眠れるようになった
- 夜中に目が覚めにくくなった
- 朝のだるさが減った
また、精神的な健康状態が良いと答えた人も多く、睡眠改善との関連がうかがえます。
さらに、月5〜15回サウナを利用する人は精神的健康スコアが高いという傾向も報告されており、メンタル面の安定が睡眠の質に影響している可能性も示唆されています。
一方で、身体的健康スコアには大きな差が見られなかったことから、サウナによる睡眠改善は、主に主観的・精神的な側面に現れやすいと考えられます。
この結果は、サウナが単なるリラクゼーションではなく、睡眠の質を高める生活習慣として世界的に認識されていることを示す重要なデータと言えます。
スウェーデンの健康調査:サウナ利用者は睡眠の自己評価が高い
北スウェーデンで実施された大規模な健康調査では、月1回以上サウナを利用する人は、睡眠満足度や日中のエネルギー感を高く評価する傾向が示されています※2。
Uppsala大学などがまとめた解析でも、サウナ利用者は非利用者と比べて「幸福感が高い」「エネルギーがある」「睡眠が良い」と回答する割合が高いことが報告されています。
こうした傾向は、利用頻度が増すほど精神的健康スコアやエネルギーレベルが良好になるという形でも確認されています。
ただし、頻度が高ければ高いほど良いという単純な関係ではなく、月1〜4回程度の“適度な利用”が最も良い自己評価につながる可能性も指摘されています。
これらの結果は、いずれも自己申告ベースの横断研究に基づいています。
そのため、
- サウナが直接睡眠を改善した
という因果関係を断定することはできません。
自己評価の高さには、
- サウナを習慣にする人のライフスタイル(運動習慣、食生活、社会的つながり)
- もともとの健康状態
といった要因が影響している可能性も考えられます。
注意点を踏まえても、複数の大規模調査で同様の傾向が繰り返し観察されている点は重要です。
文化や地域が異なっても、サウナ利用者は一貫して「睡眠の満足度が高い」と回答する傾向が見られ、サウナが“主観的な休息感”や“心身のリセット感”に寄与している可能性を示してくれています。
フィンランドの疫学調査
フィンランドでは、サウナが生活文化として深く根づいていることもあり、サウナ利用と健康指標の関連を調べた疫学研究が複数行われています。
これらの調査では、国内の成人を対象に、生活習慣(運動、飲酒、サウナ利用頻度など)と睡眠・ストレス・回復感といった健康指標を横断的に評価しています。
その結果、サウナを定期的に利用する人は、ストレスの軽減や精神的な落ち着きを感じる割合が高いことが報告されています※3。
こうしたリラックス効果が、入眠しやすさや睡眠の質の向上に寄与している可能性が示されています。
フィンランドでは、サウナは運動や入浴と同じく、「体温変化を伴う回復行動」として整理されています。就寝前の心身の緊張をゆるめる行動として広く利用されており、睡眠を促す生活習慣のひとつとして自然に位置づけられています。
このように、フィンランドの疫学調査は、サウナが単なる娯楽ではなく、睡眠を整えるための行動として文化的にも科学的にも認識されていることを示しています。
日本のミストサウナ実験
日本では、ミストサウナが睡眠にどのような影響を及ぼすのかを検証した実験研究が行われています。
成人を対象に、就寝1.5時間前にミストサウナを利用した場合と、通常の入浴を行った場合を比較し、睡眠中の脳波や体温変化を測定したものです。
この実験では、ミストサウナを利用した条件で、睡眠の第一周期におけるデルタパワー(深いノンレム睡眠を示す指標)が有意に増加することが確認されました※4。
デルタパワーの増加は、深い睡眠がしっかり得られている状態を示すため、睡眠の質の向上につながる可能性があります。
さらに、ミストサウナ利用後には
- 入眠までの時間が短くなる傾向
- 夜間の覚醒が少ない傾向
も観察されており、入眠しやすさや睡眠の安定性に良い影響を与える可能性が示されています。
この研究は、脳波を用いた客観的な測定を行っている点で、主観的評価が中心の海外調査とは異なる価値を持っています。
一方で、対象者数が限られていることや、特定の条件下での比較であることから、結果をそのまま一般化するには慎重な解釈が必要です。
睡眠改善のメカニズム
サウナがつくる一時的な体温上昇
サウナに入ると、皮膚温度だけでなく深部体温も一時的に上昇します。体はこの熱を逃がすために、次のような反応を起こします。
- 皮膚の血管を陥を広げる
- 発汗を促す
この「体温を上げる → 下げるための準備を始める」という流れが、後の睡眠準備に大きく関わります。
サウナ後の深部体温の下降が“眠りのスイッチ”を押す
サウナから出て休憩すると、血管拡張が続いているため、体は熱を外へ逃がしやすい状態になります。
その結果、深部体温がゆるやかに下降していきます。
前回の記事で触れたように、深部体温が自然に下がり始めることは、体にとって「眠りのスイッチが入る合図」になります。

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サウナ後の深部体温の下降は、このスイッチを押しやすくする働きを持つと考えられます。
つまり、サウナ後の深部体温の下降は、
体が眠りのモードに切り替わるタイミングを前倒しする
役割を果たしている可能性があります。
副交感神経が優位になり、心身が休息モードへ
サウナによる一時的な体温上昇は、血管拡張を通じて副交感神経の働きを高めることにもつながります。
副交感神経が優位になると、心拍数が落ち着き、筋肉の緊張がゆるみ、体はゆっくりと休息モードへ移行します。
この状態は、入眠に向けた生理的な準備が整うプロセスと重なります。
深部体温の低下 × 副交感神経の活性化がつくる「眠りやすく、深く眠れる」状態
深部体温の下降と副交感神経の活性化が同時に起こることで、次のような状態が生まれます。
- 入眠しやすくなる
- 第一周期の深いノンレム睡眠(デルタパワー)が得られやすくなる
- 夜間の覚醒が減り、睡眠が安定しやすくなる
深部体温の下降と副交感神経という二つの生理的変化が重なることで、「眠りに入りやすく、深く眠れる」状態が整うと考えられます。
サウナとの付き合い方
就寝の1.5〜2時間前にサウナを利用する
サウナ後に深部体温がゆるやかに下がっていく過程は、眠りのスイッチを押す働きを持ちます。
この体温リズムを睡眠にうまくつなげるためには、就寝の1.5〜2時間前にサウナを終えておくことが目安になります。
体温が自然に下がり始めるタイミングと、眠りに入りたい時間が重なるように調整すると、入眠しやすい状態が整います。
高温よりも、ミストサウナや中温サウナを選ぶ
高温のサウナは刺激が強く、交感神経が優位になりやすい場合があります。
一方で、ミストサウナや中温サウナ(60〜80℃程度)は、体温をゆるやかに上げつつ、過度な負担をかけにくいのが特徴です。
1回のサウナは15分程度を目安に、無理のない範囲で利用するのがよいとされています。
睡眠を目的とする場合は、強い刺激よりも「じんわり温まる」環境のほうが、体温リズムとリラックスの両面で適しています。
水風呂は“適度”に。交感神経を刺激しすぎない
水風呂は爽快感がある一方で、急激な冷却は交感神経を強く刺激します。
眠りにつなげたい場合は、次のような刺激を抑えた入り方が向いています。
- 短時間だけ浸かる
- ぬるめの水温を選ぶ
- 足先だけ冷やす
「ととのう」ための強い温冷交代ではなく、体温をゆるやかに下げるための軽いクールダウンを意識すると、睡眠に適した落ち着きが得られます。
外気浴や休憩で副交感神経を優位にする
サウナ後の休憩は、体温が下がり始め、副交感神経が優位になる大切な時間です。
- 静かな場所でゆっくり座る
- 深い呼吸を意識する
- 風にあたりながら体温が自然に下がるのを待つ
といった落ち着いた外気浴や休憩が、睡眠に向けた準備を整えてくれます。
この時間を丁寧にとることで、サウナの温熱効果が「眠りやすさ」へとつながりやすくなります。
刺激よりも“整える”ことを大切に
睡眠を目的としたサウナの入り方は、
- 強い刺激
よりも
- 体温リズムを整える
- 副交感神経を優位にする
といった“静かな整え方”が中心になります。
サウナの温まり方、冷まし方、休み方を少し工夫するだけで、眠りに入りやすく、深く眠れる環境が整っていきます。
使用時の注意点
サウナは心地よいリラックスをもたらす一方で、利用の仕方によっては体に負担がかかることがあります。
睡眠を目的にサウナを取り入れる際に気をつけたいポイントをまとめます。
寝る直前のサウナは避ける
サウナ直後は体温が高く、交感神経もやや刺激されやすい状態です。
寝る直前に利用すると、かえって入眠しにくくなることがあります。
就寝の1.5〜2時間前を目安に、体温が自然に下がる時間を確保することが大切です。
長時間の利用や強い刺激は控える
高温での長時間利用は、心臓や血圧に負担がかかりやすく、脱水も進みます。
睡眠を目的とする場合は、
- 中温・ミストサウナ
- 1回15分程度
- 無理のない範囲
を基本に、刺激よりも“整える”ことを優先します。
脱水に注意する
サウナでは大量の汗をかくため、知らないうちに脱水が進むことがあります。
- サウナ前後の水分補給
- アルコールを避ける
- のどの渇きを感じる前に飲む
といった基本的な対策が重要です。
心疾患・高血圧などの持病がある場合
心臓や血圧に関わる持病がある場合、サウナの温熱刺激が負担になることがあります。
- 主治医に相談する
- 高温サウナを避ける
といった慎重な対応が必要です。
発熱・体調不良のときは利用を控える
発熱時はすでに体温調節機能が負荷を受けているため、サウナの温熱刺激が体に大きな負担となります。
風邪気味、疲労が強い、めまいがあるなどの体調不良時も無理をしないことが大切です。
自分のペースで、心地よい眠りへ

サウナと睡眠の関係を見ていくと、国や研究の違いを越えて、いくつかの共通した流れが浮かび上がってきます。
サウナは、体温のリズムや自律神経を整えることで、眠りに入りやすく、深く眠れる状態をそっと後押ししてくれる存在になり得ます。
ただし、その効果は「強い刺激」や「頑張り」によって生まれるものではありません。
大切なのは、
- 体温が自然に下がっていく流れをつくること
- 副交感神経が働きやすい静かな時間をつくること
- 自分の体調や好みに合わせて、無理なく続けること
といった、やわらかな整え方です。
サウナとの付き合い方には個人差があります。
同じ温度でも「気持ちいい」と感じる人もいれば、「今日は少し強いな」と感じる日もあります。
その揺らぎごと大切にしながら、自分にとって心地よいペースを見つけていくことが、いちばんの近道です。
サウナは、眠りをよくするための“義務”ではなく、
一日の終わりにそっと寄り添ってくれるやさしい習慣のひとつ。
この記事であなたの眠りが――ととのう――ことができれば幸いです。
参考文献
- Laukkanen JA, et al. The Global Sauna Survey 2019: Sauna use, health, and wellness. Complement Ther Med. 2019.
- MONICA Study Group (Northern Sweden). Northern Sweden MONICA Study 2022: Sauna use, lifestyle factors, and self-rated sleep quality. MONICA Project Report; 2022.
- Laukkanen T, et al. Sauna bathing and risk of psychotic disorders: A prospective cohort study. Med Princ Pract. 2018.
- Okamoto-Mizuno K, et al. Effects of mist sauna bathing on sleep architecture. J Physiol Anthropol. 2018.



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