仕事、人間関係、将来の不安
忙しさやプレッシャーが重なり、ストレスを感じることが多いのが現代社会ですよね。

ストレスが多いと体が重くなってやる気が出てこない。酷いときは記憶力が落ちたり、眠れなくなったり、パニックのような症状が出ることもあります。
このような状態になると影響が出るのは仕事だけではありません。旅行や友達との時間、そして本来は自分を癒してくれるはずの″推し活″でさえ、楽しむ気力もわかなくなってしまいます。
楽しめるはずのものが楽しめなくなる―――これは本当に苦しい状況です。
「どうにかしてこのストレスを軽くしたい」
「自分の好きなことを思い切り楽しめる状態でありたい」
そんな悩みを持つ人に、ぜひ知ってほしいことがあります。
それは―――運動です。
「え、運動がストレスを減らすの?」
そう思う方も多いかもしれません。
ここからは、『運動脳』(アンデシュ・ハンセン著)を手がかりに、ストレスが体と心にどんな影響を与えるのか、そして運動がどのようにその負担を軽くしてくれるのかを読み解いていきます。
ストレス反応の仕組み
HPA軸が担うストレス反応の流れ
私たちの体には、HPA軸(視床下部・下垂体・副腎軸)と呼ばれるストレス反応のシステムがあります。
ストレスを感じると、まず脳の視床下部が反応し、 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)という物質を放出します。
CRHは下垂体前葉を刺激し、 そこから副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌されます。
ACTHは副腎皮質に働きかけ、 最終的にコルチゾールと呼ばれるストレスホルモンが放出されます。

コルチゾールが増えると、心拍数や血圧が上がり、 ストレスに対処するためのモード、「闘争か逃走か」といった状態に体が切り替わります。 適度であれば集中力を高める助けにもなりますが、 過剰になると逆に思考がまとまらなくなってしまいます。
扁桃体は″アクセル″、海馬は″ブレーキ″
ここで、ストレス反応を強めてしまう“犯人”がいます。 それが扁桃体です。

扁桃体は、危険を察知したときに警報を鳴らす役割を持っています。 本来は私たちを守るための大切な機能ですが、 この警報システムは自分が出した警報にも反応してしまうという特徴があります。
その結果、ストレス反応がさらに加速し、 悪循環に陥るとパニックのような状態になることもあります。
一方で、扁桃体のアクセルに対して、 ストレス反応を抑える“ブレーキ”の役割を持つのが海馬です。
海馬は記憶の中枢として知られていますが、 実は感情のコントロールにも深く関わっています。 扁桃体の暴走を抑え、ストレス反応を落ち着かせる働きをしているのです。
ストレスが慢性化するメカニズム
しかし、ここで問題があります。
海馬は、高濃度のコルチゾールに弱いという性質があります。 慢性的なストレスでコルチゾールが増え続けると、 海馬の細胞がダメージを受け、委縮してしまうことがあるのです。
その結果、
- 記憶力の低下
- 感情のブレーキが効きにくくなる
- ストレス反応が止まらず加速する
といった悪循環が起きてしまいます。
これが、ストレスが慢性化してしまうメカニズムです。
運動がストレスを軽くする理由
運動がコルチゾールを調整する
いよいよ、運動がどのようにストレス反応を軽減してくれるのかを見ていきましょう。
まず知っておきたいのは、運動そのものも一時的にはストレスになるということです。 運動中は体に負荷がかかるため、コルチゾールの分泌量は一時的に増えます。
「え、結局運動もストレスなの?」 そう思う方もいるかもしれません。
確かに運動はストレス刺激になります。 しかし、注目すべきは運動後の反応です。
運動が終わると、体は「もうストレス反応を起こす必要はない」と判断し、 コルチゾールの分泌量は運動前よりも低いレベルにまで下がっていきます。

さらに運動を習慣にすると、
- 運動中のコルチゾール分泌量は少なくなる
- 運動後のコルチゾール低下がより大きくなる
という変化が起こります。
そして驚くべきことに、 運動以外のストレスに対してもコルチゾールの反応が穏やかになることがわかっています。
つまり、運動を続けることでストレス耐性が育ち、 その耐性は日常のさまざまなストレスから私たちを守ってくれるのです。
これが、運動がストレスを軽減する大きなメカニズムです。
脳内の“消火器”──GABA
運動はもうひとつ、ストレス対策に重要な働きをもたらします。
それが、GABA(γ-アミノ酪酸)という神経伝達物質の活性化です。
GABAは、脳が興奮しすぎたときにブレーキをかけてくれる“消火器”のような存在で、 ストレス状態では特に重要な役割を果たします。

研究では、習慣的な運動によってGABAの働きが主に大脳皮質で高まることが示されています。 大脳皮質はストレスや不安の処理に関わる領域でもあるため、 運動がストレスの源を落ち着かせてくれるのです。
どんな運動がストレスに効くのか
ウォーキングとランニングの研究結果
ここまでで、運動がストレスの味方になってくれる理由が見えてきましたね。
では次に気になるのは、 「どんな運動をすればいいの?」 という点だと思います。

『運動脳』では、アメリカで行われた興味深い実験が紹介されています。
不安症状を抱える大学生たちが、くじ引きでウォーキングかランニングのどちらかを選び、 疲れない程度に週数回、20分の運動を2週間続けました。
その結果、
- ウォーキングでもランニングでも不安感が軽減
- 効果は運動直後から感じられ、1週間持続
- より効果が高かったのはランニング
という結果が得られました。

ただし、研究ではまだ「万人に共通する最適な運動量」は確立されていません。 運動の効果には個人差があるため、体系的な比較が難しいのです。
とはいえ、科学的根拠に基づいた“目安”はあります。
- ランニングや水泳などの有酸素運動
- 最低20分、余裕があれば30〜45分
- 週に2〜3回
ストレス緩和を目的とするなら、 筋トレよりも心拍数が上がる有酸素運動が効果的とされています。
不安が強い人が気を付けたいこと
不安やストレスが強いとき、心拍数や血圧が上がると脳は「危険だ」と判断し、 “闘争か逃走か”の反応を起こします。
しかし、有酸素運動でも心拍数は上がりますよね。 その後、エンドルフィンやドーパミンが分泌され、気分が良くなる。
この経験を繰り返すことで脳は、
「心拍数が上がっても危険ではなく、むしろ気分が良くなる」
と学習していきます。
ただし、過去にパニック発作を経験した人は注意が必要です。 いきなり強い負荷をかけると、脳が「発作の前触れだ」と誤解することがあります。
不安が強い人は、まずは軽い負荷から慎重に始め、 徐々に強度を上げていくことが大切です。

もし心拍数を上げるのが難しい状態なら、 散歩に出るだけでもストレス軽減効果は十分に期待できます。
さあ、気持ちの良い空気を吸いに、外へ一歩踏み出してみましょう。
今日からできる小さな一歩
この記事では、ストレスが私たちの体と心にどのような影響を与えるのか、そして運動がその負担をどのように軽くしてくれるのかを見てきました。
ストレス反応は本来、私たちを守るための大切な仕組みです。 しかし、慢性的に続くと扁桃体が過剰に反応し、海馬がダメージを受け、心も体も疲れ果ててしまいます。
そんな悪循環を断ち切る力を持っているのが「運動」でした。
- 運動はコルチゾールの調整を助ける
- GABAを活性化し、脳の興奮を落ち着かせる
- 心拍数の上昇を「危険」ではなく「心地よさ」として脳に学習させる
- 軽い運動でも効果があり、続けるほどストレス耐性が育つ
運動は、ストレスに押しつぶされそうな毎日にそっと寄り添い、 私たちの心を守る“味方”になってくれます。

ストレスが多い日々の中で、いきなり大きな変化を求める必要はありません。 まずは、外の空気を吸いに少し歩いてみる。 その一歩が、あなたの心を守る大切な習慣の始まりになります。
この記事の内容は、アンデシュ・ハンセンさんの著書『運動脳』に多くの示唆をいただきました。
ここでは触れきれなかった魅力的な内容もたくさん詰まっているので、興味を持たれた方はぜひ手に取ってみてください。
きっと、運動が心にもたらす力をもっと深く知るきっかけになるはずです。
――今日のあなたにとって、運動が小さな味方になりますように――
○運動脳/アンデシュ・ハンセン

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